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9年以上前から毎日のように中絶胎児の遺体を引き取って供養している女性がいる。紅河デルタ地方ナムディン省ギアフン郡ギアタン村に住むファム・ティ・クオンさんで、現在73歳になるが、自転車で各地のごみ捨て場や医療施設を走り回って、遺体を引き取っている。その距離は数十キロメートルに上る。
 クオンさんがこの「仕事」を始めるきっかけになったのは、2002年3月8日の朝のことだった。野菜を売るため、いつものようにドンビン市場に向かいドンビン橋まで来た時、ハエのたかった黒いビニール袋が道端に落ちているのを見つけた。誰かがごみの袋を捨てたのだろうと思い一旦通り過ぎたが、突然体の中から言いようのない不安感が沸き起こり、引き返して袋を開けてみた。
 中には生まれたてで息も絶え絶えの赤ん坊が入っており、大きな両目で助けを求めるようにクオンさんを見つめていた。家に連れて帰り手当てを試みたが、赤ん坊はまもなく息を引き取った。眠れぬ夜を何日か過ごした後、クオンさんは葬られることもなく捨てられる胎児や嬰児のために何かをしようと決心した。
 ドンビン市場の近くには数か所の中絶施療施設があり、毎日百件近くの中絶が行われているとみられている。クオンさんは「生活が良くなるに連れて、自堕落な人が多くなっている。捨てられた中絶胎児を見るたびに、産声を上げることなく死んだ子供たちを不憫に思う」と嘆いた。
こんな奇妙な仕事をするのは自分だけと思っていたクオンさんだが、同じ村の高齢男性ブー・バン・バオさんもこれに加わるようになった。「始めたころは、『頭が
おかしくなった』と人に笑われたけれど、だんだん理解されるようなって、今では
協力者もいる」とクオンさん。
 クアンビン墓地に、不憫な子供たちのかなり立派な墓がある。ホーチミン市在住の篤志家が、彼女のことを知って墓の建立費用を寄付してくれたのだという。クオンさんは、「このお墓には私たちがこの約9年間に引き取った3000体以上の子供の遺体が埋葬されている」と話し、線香を手向けた。
 クオンさんの家族は裕福とは言えず、年齢のせいもあって体が弱ってきている。彼女が願っているのは、もうこの仕事をしなくてもよくなる日がくることだ。ただし、「健康でいられる限り、この仕事を続けるつもり。不幸過ぎる子供たちを捨てられたままにしておけない」とクオンさんの決意は固い。